Voice of partner companies
共生社会の実現の為には「障害のある人もない人も共に働く事」が必要です。ここではマザーアースが常日頃協力をお願いしているパートナー企業様をご紹介します。
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就職をした利用者さんがマザーアースの訓練を終えて就職に至るまで、そして現在をインタビュー。就職先のトラストバンク代表取締役 小柴義明さんが考える「在宅での障害者雇用をどう広げるか」についてお話を伺いました。
秦: 本日はありがとうございます。地方には在宅で力を発揮できる方が多くいますが、現実には機会に恵まれない為、なかなか就労に結びつかないこともあります。今日は在宅雇用のリアルについて、企業の立場からお話を伺いたいと思います。
小柴: よろしくお願いします。
小柴:
うちは障害福祉施設向けの支援記録システムを開発・販売していて、売上の98%がシステム事業です。全国で約1,500の事業所に導入いただいています。(令和7年10月末)
社員は7名ですが、外部エンジニアを含めて12名ほどの体制です。創業時から完全在宅で、入社時に「在宅勤務が前提」であることを了承してもらっています。
小柴: 7名のうち4名が障害者手帳を持っています。ADHD、双極性障害、自律神経失調などの特性が中心です。エンジニア3名とサポート窓口1名で、雇用率は60%を超えます。環境が整えば非常に力を発揮できる人が多い。なので積極的に採用しています。
秦: Bさんはシステム検証を担当されていますね。
小柴:
はい。単なる「バグチェック」ではなく、システムを安定稼働させるための重要な検証を任せています。
具体的には、システムの操作手順を細かく定義してスクリプト化し、夜間に自動で実行させます。エラーが起きれば翌朝には「どの処理で不具合が発生したか」という通知が届き、さらにその操作手順を動画として自動保存して確認できるようになっています。
人が手作業で確認するより効率的で、修正時にも「どの環境で、どの操作でエラーが起きたか」が証拠として残る仕組みです。全国1,000以上の事業所で使われるシステムにとって、大きな安心材料となっています。
秦: 単なる「不具合を探す人」ではなく、「不具合を見つける仕組みをつくる人」なんですね。
小柴: その通りです。Bさんは細部に敏感で矛盾を見抜くのが得意。その個性がまさに業務に活かされています。会社にとって不可欠な役割です。
秦: 当初は「在宅で受け入れてくれる企業がないか」と模索していました。そこでトラストバンクさんにご相談したんです。
小柴:
ちょうど当社は創業時から完全在宅勤務を基本にしていたので、「そういうことであれば、うちでも検討できますよ」とお答えしました。在宅の仕組みはすでに整っていましたし、挑戦してみる価値があると考えました。
実際に面談を経て1か月ほど実習してもらい、問題なく業務を進められたので採用を決めました。メインエンジニアが適性を判断しており、最初の1週間で合うかどうかが分かります。エンジニアのカルチャーなので、特性や障害などの理解はありますが、結局のところ仕事がきちんとできるかどうか、一緒にやれる人かどうか、というシンプルな基準で評価しました。
佐藤(支援員): 本人は不安も大きかったのですが、仕事に取り組む中でどんどん元気になっていきました。体調の波はあるものの、仕事中はむしろ活き活きしていました。
秦: 在宅雇用を軌道に乗せるには、どんな工夫をされていますか?
小柴: 業務はタスク管理ツールで明確に定義し、進捗も見える化しています。体調を崩したときには勤務時間を柔軟に調整し、過干渉は避けています。その上で、月1回の定着支援面談を“ガス抜き”の場として活用しています。こうした仕組みがあることで、安心して仕事を続けてもらえます。
秦: その「定着支援面談」ですが、企業だけではなかなか難しい部分もありますよね。
小柴:
ええ。やはり福祉事業所との連携が大きいです。マザーアースさんの支援員が毎月の面談に入り、職場の状況だけでなく、生活面の不調や体調の変化も共有してくれます。
私たち企業側は業務のことは把握できますが、生活リズムや服薬の状況までは見えません。そこを福祉が補完してくれるからこそ、安心して長期的に任せられるんです。
秦: 企業と福祉がそれぞれ得意な領域を分担して支える。それが在宅雇用の安定につながるのですね。
小柴:会社としては、残業はほとんどなく、有給休暇も取得しやすい環境を用意しています。大事なのは「どう働くか」より「何を成果として出せるか」。そのために、一人ひとりに合った働き方を尊重しています。
秦: 型にはめずに幅広く受け入れつつ、成果はきちんと見る。そのバランスが大事ですね。
小柴: 採用は就労移行からの紹介だけでなく、障害特化型の人材紹介会社も利用しています。短時間からでも優秀な人材を採用できるのは有効です。逆に、委託でサポートを任せている事例では、なかなか雇用に繋がらないケースもあり、やはり直接雇用の方が組織として力を発揮しやすいと感じます。
小柴: 在宅就労には責任感が必要ですし、辛いときに助けを求められる力も大事です。Bさんの場合、不安や働く上での業務以外の困りごとを支援者であるマザーアースに率直に伝えられる関係性ができていることが、安心して働き続けられる大きな理由になっていると思います。企業だけで完結するのではなく、支援機関が間に入ってくれるからこそ実現できることです。
秦: 責任感には「仕事をやり切る」「技術を伸ばす」「休まずに来る」など、いろんな意味がありますね。働く上で共通して大切な資質です。
小柴: Bさんは自信を持って改善提案もするようになり、PHPの学習も進めています。契約も有期から無期雇用に切り替えました。これからはさらに開発エンジニアとして成長していくと思います。
在宅雇用は、工夫次第で社員の力を最大限に引き出せる働き方です。
この三つを整えることで、安心して在宅での雇用を進めることができます。
まだまだ事例は多いわけではありませんが、今後この分野には大きな可能性があります。在宅という環境に強みを持つ優秀な人材は確実に存在しており、企業にとっても新しい人材確保の選択肢となり得ます。
マザーアースとしても、福祉の立場から引き続き企業と連携し、在宅での障害者雇用がより当たり前の選択肢となるよう取り組んでいきます。
マザーアースを利用し、現在は関東圏のIT企業に新発田にいながら完全在宅勤務している元利用者・Bさんに、代表の秦徹があらためて当時を振り返る。
秦: マザーアースを利用しようと思ったきっかけ、最初の印象を覚えていますか?
B: 当時は心療内科に通っていて、ようやく薬が合って体調が少し良くなってきたところでした。ただ5年くらい何もしていなかったので、「そろそろ頑張らなきゃ」と思って、自分でネットで在宅就労の情報を探したんです。その時、「新潟市にはPCを使った在宅就労支援をしているところがある」と知って、「新発田にもあったらいいのに」と思って先生に相談しました。そしたら「障害者就業・生活支援センターに相談してみたら」と言われて、そこでマザーアースともう一つの施設の2か所を紹介されました。
秦: その時点で「在宅で働く」という選択肢は頭にあったんですね。
B: はい、コロナの影響もありましたし、クラウドで働くライターや文字起こしの方の話を聞いて、「これなら自分にもできるかも」と思ったんです。実際、クラウドサービスに登録してやってみたんですが、案件が何年も継続する必要があったりして、体調が安定しないと信頼も得られない。私のように波があると厳しくて。まずは1日4時間働ける体調をつくるところから始めないとダメだと思いました。
秦:当時を振り返って、最初に感じた難しさってどんなことでしたか?
B:まず、自分がとにかく不安でした。訓練の説明は受けたんですけど、「本当に自分にできるのか?」というイメージがわかなくて。しかも自分から職員さんに情報を共有しようという気持ちがなくて、「こうしたい」という思いがあっても言葉にできなかった。たとえば、画像修正の訓練でPhotoshopの参考書を渡されたけど、「これ、ちょっと違う」と思っていても言えなかったんです。結局、訓練の目的が共有されていないまま進んでいました。
秦:当時、こちらも在宅訓練を手探りで始めていた時期で、対面なら伝えられることもリモートだと難しかった。特にBさんのように高いスキルを持った方には、職員側も戸惑いがありました。
秦:マザーアースには様々な障害をもたれた方を支援していますが、その雰囲気はどう感じていましたか?
B:高校時代や大学でも福祉系の学びがあったので、抵抗はなかったです。「こういう場所で頑張っている仲間がいるんだ」と素直に思えました。むしろ、同じように引きこもっていた人が、地元にこんなにいたのかと驚きました。自分も頑張らなきゃなと励まされました。
B:在宅訓練で印象的だったのは、毎日朝礼やチャットでやり取りしながら生活リズムが整えられたこと。孤独感が薄れ、誰かと一緒にやっている感覚が持てたのは大きかったです。
秦:他にも、「仕事は一人でやるものじゃない」という話をしましたよね。
B:覚えてます。自分は成果を出す事に集中するあまり、口調が強くなりがちで、それが原因で誤解されることも多かった。秦さんに「成果物を良くしたいなら、自分が良くしたいと思ってるから今こういう事を言っている、ということをちゃんと伝えなきゃ」と言われてハッとしました。その前提を共有して初めて議論ができる。実際、そうした意識が在宅就労を続けるうえでも大事だったと思います。
秦:マザーアースを利用していた時期、特に在宅訓練って実際どうでしたか?こちらも手探りの時期でしたけど…。
B:そうですね、当時は本当に「みんなで模索してた」という感覚でした。在宅だと、他の人の様子が見えにくくて、「これで合ってるのかな」って不安になることも多かったです。
秦:たとえば、日々の関わりはどんな感じだったんですか?
B:毎朝の朝礼でチャットで「おはようございます」「今日は○○やります」と入力して、夕方に「終わりました」と報告する、という基本の流れがありました。それだけでも、誰かとつながっている感覚があったのがありがたかったですね。
秦:なるほど。訓練内容についてはどうでしたか?
B:最初は画像修正の参考書を渡されて、自習みたいな形でした。でも、途中で「これ本当にやりたいことと違うな」と感じて、聞いてみたら「過去に似た案件があったからやってみたらどうか」という意図だったと知って…。ただ、最初にその背景が共有されていなかったので、やっている間は「なんでこれをやってるんだろう?」ってずっと迷いながら進めていました。
秦:職員側としても、業務の目的や想定される背景をうまく説明できていなかった部分がありましたね。
B:はい。ただ、自分から言い出せなかったのも事実で。当時はまだ、「助けてもらうことすら面倒くさい」と感じていた部分がありました。医療機関への受診の度に体調について同じ事を何度も違う人に説明したり、説明し続けて体調が悪い日が続くと、何をどう伝えたらいいかもわからなくなって、気持ちも閉じてしまっていたと思います。今となっては反省する点です。
秦:でも、途中から「こういうことをやってみたい」と提案してくれるようになりましたよね。
B:そうですね。体調が少し安定してきて、「自分なりの取り組み方」を試したくなって。たとえば、作業に慣れてきたタイミングで、「自分の読んだ本について感じたことを他の利用者さんに話す時間がほしい」とお願いしました。実際に2〜3回やらせてもらって、すごく刺激になったんです。
秦:読書感想の共有、ありましたね。「この本でこういう風に考えるようになった」って話してくれて、周りの人もそれに応えてくれて。
B:そうなんです。自分が「こう考えた」と言ったとき、他の人が「私はこう捉えた」と返してくれる。そういうやり取りで、自分の考え方の引き出しが増えていった感じがします。意見が違っても否定されるわけじゃなくて、「そういう見方もあるんだ」と気づける空間だったのは、本当にありがたかったです。
秦:Bさんの訓練って、こちらが用意したプログラムをただ消化するんじゃなくて、「こうしたらどうですか?」と主体的に発信してくれて、職員も一緒に考える関係性ができてたのが印象的でした。
B:そこは大きかったですね。たとえば、体調記録が苦手だったんですけど、ある時職員さんに「調子の悪い日と良い日の違いをメモしてみたら?」と提案されて、それならやれるかもと思って始めたら、自分なりのパターンが見えてきて。最初は嫌々だったのに、納得してからは自然と続くようになりました。
秦:強制ではなく、自分で意味づけを見出したからこそ動けたわけですね。
B:まさにそうです。マザーアースでは「本人が納得するまで待ってくれる」支援だったから、やらされ感がなくて、自分の中から自然に「やってみよう」という気持ちが出てきました。
秦:今のお仕事の面接のとき、準備したことはありましたか?
B:はい。オンライン面接なので、背景を整えたり、カメラの角度を意識したり、「聞き取れなかったら確認する」など基本的なことをまとめておきました。あと、体調配慮の希望(30分に1回休憩したい、会話は30分以内で等)もリストにして、「これだけは伝える」と決めて臨みました。
秦:今のお仕事ではどういうことをされてるんですか?
B:ソフトウェアのバグチェックや社内向けツールの開発を任されています。自分は問題点や改善の余地がある箇所を見つけるのが得意だと感じています。PHPやJavaScriptを使って、改善提案しながら進めるのが楽しいですね。上司も、「なぜこれをやるのか」を説明してくれるタイプで、自分にすごく合ってると思います。
B:私がマザーアースを卒業する時、仲間のみなさんにも話したんですけど、「ストックデールの逆説」という言葉があるんです。
ベトナム戦争で7年半も捕虜になって生き延びたアメリカの海軍将軍がいて、彼が「なぜ生き残れたのか」と問われたときに語った考え方です。
「自分は必ず生きて帰ると信じていた。でも、同時に目の前の過酷な現実を直視していた」と。楽観しすぎた人──「クリスマスまでには帰れる」「イースターには終わるはずだ」と信じた人たちは、かえって心が折れてしまった。一方で、「もう絶対無理だ」と絶望してしまった人も耐えられなかった。
彼は「私は必ず脱出できると信じたが、それが“いつか”はわからないし、過酷な現実を直視する覚悟も持っていた」と言うんです。
それを読んだとき、「在宅就労もまさにこれだな」と思いました。実際、在宅は続けるのが簡単じゃないし、うまくいかない方も多いと思います。でも、悲観しすぎてもダメ、楽観しすぎてもダメ──その“塩梅”がすごく難しくて、でもそれを意識し続けることが大事だと思うんです。
秦:なるほど。それって生きる上で難しいことでもありますよね。障害がある・ないに関わらず。
B:そうですね。特に障害があると、不安との付き合いがずっと続くと思います。私も含めて、通っていた仲間はみんな、基本的には「不安そうな顔」をしていました。だからこそ、自分の中に「楽観できる材料」を見つけていくこと──「これは自分の力で見つけられるかもしれない」という視点を持つことが、すごく重要だと思います。
でも同時に、「危機感」がないと動けないのも事実なんですよね。この両方を自分の中に持てるように、そして支援して頂く方もそこに気づけるような支援をしていただけると、すごく良いのではと思っています。
秦:在宅での働き方は、まだ社会にはあまり知られていません。特に地方においては、在宅での就労が当たり前とは言えない状況です。だからこそ、Bさんのように「在宅で、責任ある仕事をしている」という具体的な事例を共有することは、在宅就労の可能性を社会に伝え、多くの人々に新たな選択肢を示す上で、非常に大きな意味を持つと感じています。
B:マザーアースでの訓練がなかったら、今の自分はなかったと思います。試行錯誤を支えてもらったこと、仲間と励まし合えたこと、それが今の働き方の土台です。在宅就労を考える誰かの「一歩」につながれば嬉しいです。